タッチ(The Touch)

打鍵といっしょによく言われるのがタッチです。タッチの良し悪し、タッチを磨くなどよく言います。
このタッチって何でしょう。
タッチ=touch 触るってことでしょうか。英語だ!
タッチが先か打鍵が先がよく混同されています。
実は、「タッチ」と「打鍵」、全然違います。
打鍵については前回の項で説明したものを読んでいただければ分かると思います。
タッチは、まさに鍵盤に触る、なのです。触って押してハンマーが弦を打弦する位置を感知して音の大きさ、どこまで伸ばすか(離鍵のタイミング)などを瞬間瞬間で決定していくのです。
一流ピアニストのタッチは、鍵盤を撫でるかのようです。このようなところから楽器を奏でる(か なでる)という言葉があるのかもしれません。
ここで、ちょっと待って、なんでそんなことするの?と疑問が湧くと思います。
ピアノ鍵盤は、タッチからハンマーが打弦して音がなるまでに様々な工程があります。(詳しくはピアノ製作会社や調律士などの記事に結構詳しく書かれているのでそちらを参照してください。)
タッチ奏法では、鍵盤に触った指先がこれらの工程を感じながら弾くということです。
これらの精密な工程を一個ずつタッチして感じるには完璧に調整されたピアノより意図的に部品を調整を変えて弾くと分かるかもしれません。(調律の勉強した方が早いかな、うんと時間が掛かりそうです。)
鍵盤は触ったら音が出るのではなく鍵盤を押してから音が出る(ハンマーが打弦する)位置は結構下の方です。鍵盤の八分目ぐらいのところ。また丁度その付近にアフタータッチと呼ばれる場所があります。ゆっくりやるとその場所で「カクン」という感触が得られます。
また下まで押してからゆっくり上に上げていくと徐々に音が減衰していきます。鍵盤の上、二分目くらいまで来て音が完全に消えます。
(その為ピアノは音が鳴ってからもこの離鍵の動作によって音色が変わります。)
タッチ奏法ではこの鍵盤アクションの状態を指先で感じながら弾くということです。ほとんど鍵盤から指先が離れません。指は伸ばして曲げる、伸ばして曲げる。の連続です。振り上げて弾くより1工程少ないのでこの方が速いです。鍵盤から指先が離れることもなくはありませんがそれは単に曲げるために伸ばしただけなのです。
レガートで弾くときは前の音を離鍵しながらもう次の音を弾き始めます。こうすると弦の音を消すバンパーがギリギリまで上がった状態になるので音に段差がなくなり音が繋がれることで滑らかに聞こえるというわけです。上手くできると音型のあるグリッサンドのようになります。
この奏法を開発したのは誰だか分かりません。でも積極的に活用したのは間違いなくピアノ詩人 ショパンです。
ショパンの作品にはレガートを追及したものが多いです。
練習曲集の作品25の8度の曲は究極的なものです。よくショパンエチュードの最難関は、3度のエチュードやイ短調の半音階、ハ長調の重音の曲が挙げられますが実はこれが一番難しいです。演奏頻度が少ない理由はレガートでインテンポで弾くのが至難の業だからです。そのほかにもバラードや舟歌などタッチの技法を極めないと上手く弾けない作品が多いです。
鍵盤から指が離れて一つずつ打鍵するとボコボコ音に凹凸ができてしまい聞き苦しくなります。離れた和音、六度のアルペジオを鍵盤から指を離さずタッチで滑らかに演奏することは、難しく習得に時間が掛かります。しかし出来るようになると綺麗な至福の境地が待っています。
ショパンは同時代のピアニストがどうしてあんなにピアノを叩くのだろうとよく嘆いていたと文献が残っています。そんなころから奏法の違い、流派みたいのがあったようです。現在でも世界的にそういう混乱があります。なかなか科学のメスが入って解決というわけにはいかないようです。
表現によっては鍵盤を打鍵することもあります。作曲家が曲で求めていることをどのように解釈し表現するかによって使い分ければいいのです。

渡辺音楽教室

埼玉県志木市中宗岡にある音楽教室です。楽譜の読み方から高度な演奏法まで丁寧にやさしくお伝えします。

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