昨年12月(2018年)、ゴドフスキーの左手のエチュードを練習しすぎでひび割れてしまった左人差し指先がまだ治りません。やりすぎと下手な治療が災いしています。
先月ぐらいから脂分を定期的に付けたらどうかと思いニベアスキンクリームを手の平に塗るようにしたところだいぶ改善されてきました。これをしていなければ指先がぼろぼろになってしまいます。
この項ではタッチ奏法の元となる指先の皮膚感覚について書いてみたいと思います。
人間の手のひらは、毛がなく無毛皮膚と呼ばれる独特な構造になっています。足裏も同じ皮膚です。
さて皆さんはピアノを弾くとき指のどの部分で弾くでしょうか?
指先(爪の下あたり)、指先よりやや下の部分、指先腹の部分。
実はこれには正解はありません。どの部分で弾いてもピアノは音を出すことができます。
ただし爪の下あたりで弾くと爪の音がカチカチなってうるさいかもしれません。昔は私はこの部分で弾いていました。そのために爪を短く切るので普通の人より爪が短いです。また鍵盤による圧力でだんだんと指先が四角くつぶれてきます。短いスタッカートの音、鋭い音が欲しい時はこの部分で弾くのが効率的です。
シャーローク・ホームズが女性の職業を当てるときに指先がつぶれているので「あなたはピアニストですね」なんて場面があったかと思います。昔はみんな、指の先で弾いていたということかな。
指を丸めて弾くハイフィンガ奏法とも関係があるのでしょう。
「指先よりやや下の部分」。今はこの部分で弾く人が多いかも知れません。指を寝かし気味に鍵盤に置くと丁度、この部分に当たります。
ピアノランドの樹原涼子さんは、この部分をタッチポイントと名付けています。
「指先の腹」。鍵盤を奏でる(撫でる)ように弾くとき、テヌートのような効果が欲しい時、私はこの部分で弾きます。
げんこつや手のひら、空手チョップで弾いても音はなるのですが特殊効果が欲しい時だけですね。使うのは。とはいっても実際にやっているのを見たのはジャズピアニストの山下洋輔さんぐらいでしょうか。黒人ピアニストのアンドレ・ワッツ氏もリストのソナタでやっていたような覚えがあります。
ではなんで指先で弾くのでしょうか?
人には指先は、皮膚パッドと呼ばれる触覚受容器がたくさん入っているエリアです。指紋や触覚受容器がたくさんあるおかげで道具の把持や器用なハンドリングができるというわけです。
繊細な感覚が要求されるピアノタッチもこの部分を使うことで瞬時に沢山の情報をキャッチして音楽を奏でることができます。
ある研究者が柔軟なロボットフィンガを工業用ロボットに実用化を試みたところ摩耗が激しく断念せざるを得なかったという記事がネットにありました。
動物の場合は、組織を再生し続けることで摩耗に耐えていくということです。
あっ痛!私の場合は、この再生システムを壊してしまったということか?
「2点弁別閾測定」というものがあります。
コンパスのような2本先の細いもので皮膚を刺激してそれが1点なのか2点なのか
答えさせるというものです。
これは指をよく使う人ほど発達して短い間隔でも2点に感じられるとのことです。指を使うピアニストは総じてこの感覚が発達しているようです。また発達度は、練習の多さにも比例するようです。
やらせが発覚して番組終了してしまった「発掘!あるある大事典」で面白い実験をやったことがありました。
テーブルのあるところに極薄のシートを置き指先でなぞってシートがあるかないかをゲストに答えさせるというものでした。
シートを感じることができる人とできない人に分かれました。若い人ほど感じることができる確率は高く、年齢が上がると感じることができる確率が下がりました。
こうした皮膚感覚も加齢によって衰えて来るのですね。
脳科学の調査でも明らかになっていますが、ピアノの練習、手を使う行為の反復によってこの感覚を保ち、発達させることが可能です。
介護をやると分かりますが日常生活で無意識にやっている何気ない動作ができなくなるとどんなに不便だか。
生活に必要な感覚がピアノや楽器を練習することによって保持することができるのであればこんなにいいことはありません。
「音楽やった方がいいよ」と胸を張って周りの人にすすめましょう。
ピアノを何十年もやっていると何センチもない鍵盤がいかに深いか思い知らされます。
大曲や難しい技巧の要求される曲、アダージョや極繊細なピアニッシモを要求される曲を弾いていくと指の筋肉やタッチの技術が発達していきます。
そうするとピアノの音が変わっていきます。
音が爆ぜてくるというか、倍音がよく出て音が伸びている、ということを実感することが出来るようになります。
私のピアノの音もいまだに変化を続けています。
こうなると音の少ないショパンのノクターンやモーツアルトのソナタの二楽章をゆっくりのテンポでも抒情的に弾くことが可能です。
ショパンエチュードに入ると一応、ピアノ上級者の仲間入りになりますがまだまだ序の口です。バッハから現代曲にいたるまでの様々な曲、大曲、難曲を弾きこなしてやっとショパンエチュードが綺麗に弾けるようになります。
ある巨匠が難しい練習曲などで技術を習得しメンデルスゾーンの無言歌でその成果を問う、というようなことを言っているのを本で読んだことがあります。
結局、タッチを磨くということは「ピアノを歌わせる」という技術を磨くということなのです。
掲載の画像は、7・8年前、高田馬場にある日本点字図書館で入手した点字の教科書です。
全部点字で書いてあります。
館員の方から「難しいよ」と言われました。
指先の感覚を少しでも高めようと何年間かつづけましたが点字を読めるようにならず挫折しました。
この記事をきっかけにまた時間を作って挑戦したいと思っています。
タッチについてはまだ謎が多く追及し甲斐があります。
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